2017年、読了した本とおススメをご紹介
この本を通して、組織としての危機対応はどうあるべきか?、情報共有の方法、事前訓練の重要性など、「現場」というものに関わる人々が一読に値する教訓が多数あり。
一例として、とても興味深かったモノがイソコンの取り扱いについて。
福島第一原発には、電源停止時にも自動で稼働する冷却装置(イソコン)が設置されていた。
大震災による津波被害で全電源が停止した時、吉田所長はイソコンの稼働状態について、当初の想定通り稼働していると思い込んで確認をしなかった。
中央制御室での人員もイソコンの稼働状態は、事故への対応のため頭から抜けていた。
吉田所長は免振棟の人員に、豚鼻(外壁にでているイソコンの蒸気吹きだし口)の状況確認を指示するも、確認した人員も実際にイソコンが稼働した状態を見たことがなく、イソコン稼働していると思い込んでしまった。
結果、第一原発の冷却機能が稼働していないことに気づかないまま時間が経過し、メルトダウンへ至ってしまった。
イソコンは、第一原発の稼働当初は実際に試運転し稼働試験をさせていたものが、どこかの段階で稼働試験を止めてしまっていた。
そのため、現場の人員がイソコンの機能と実際の稼働状態を理解しておらず、判断ができなかった。
ほか、海水注入を吉田所長の独断で実行に移したが、実際は海水は全く原子炉に届いておらず、何の効果も発揮していなかったこと、どの組織でも課題となる「情報の共有」・・形だけを整えた報告システムなのか、活きた報告システムがあるのか?、など考える点がいろいろ思い浮かぶ
ギャングというと映画の影響か、抗争ばかりしている印象あるが、実際は抗争がおこると客がスラムに寄り付かなくなり、ヤクの売上が落ちるため抗争を嫌い、それぞれのコミュニティの有力者とカネや話し合いで調整役をしていること。
暴力沙汰などのトラブルがあれば、警察へ対応を依頼するという一つの「常識」がスラムでは通じない・・警察もスラムのトラブルに関わりたくないので、通報があっても対応しない。
そのため、ギャングや自治会が独特の権力構造の中で問題を自己解決している様子が、臨場感ある姿で描かれている。
著者は、とある経緯でギャングの「帳簿」を手に入れ、ギャング内の経済状況を把握することができたが、ギャング内でのカネの動きについての記載もオモシロい。
そこそこ厚みのある本だが、ルポとしての臨場感、アメリカンスラムの生活を覗き見る面白さから、一気に読めた。
「ヒルビリー」(田舎者)、「ホワイトトラッシュ」(白いゴミ)と呼ばれる白人労働者たち、曰く忘れ去られた人々が、どんな世界観の中で生活しているか。
著者の目を通して見えてくる白人労働者たちには、ある種の「絶望」が横たわっていることが分かる。
仕事があれば!と言いながら、仕事をすぐに辞める労働者、そもそも人生の選択肢として大学への進学という視点がでてこない生活環境と文化・・背景にあるのは、「自分」で自分の人生を変えることができるという「希望」が欠落していること。
貧困家庭で起こっていることは、生活環境の厳しさもあるが、希望の欠落が自助努力を放棄させていくシステムが再生産されていくこと、自尊心の欠落が人生の可能性そのものを狭めていくこと。
自助努力をしない人々を一律に自己責任の一言で扱ってよいのだろうか?、と考える。
努力することで何かが好転した経験のない人間に、努力の必要性を説いたところで、何が伝わるのだろう?
人の精神の文化度をどう好転していくことができるか?、を考えるキッカケにもなると思う。
著者は「足利事件」の菅家さんとも面識があり、真犯人を見つけ出すため、容疑者となっていた菅家さんを候補から「排除」することを目的に冤罪の証明に努力する。
証拠とされたDNA検査のずさんさや、警察の組織として誤りを認めようとせず、いったん軌道にのった路線から降りるくらいなら冤罪も本当の犯罪として固めてしまおうとする悪質さ。
『それでもボクはやってない』という痴漢冤罪も身近になるこの頃、冤罪の問題や司法・警察の組織的な問題は、いつ自分が当事者になるかもしれないという臨場感がある。
自分も含めて「科学的」という言葉で表現される結果を、安易に信用する傾向がある中で、「科学的」な内容がどんなモノか吟味しない危険性、ネットやメディアを含めた情報とどう向き合うか?、といったことも考えさせられた。
DNA検査の問題点など、細かな問題追跡などややこしく感じる点もあるが、語り口は一人称で分かりやすく、ノンフィクションとして秀逸
おススメ本
『福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」』
3.11のあの時、現場でどのような対応がなされ、どのような失敗があったのかを検証した読み応えのある本。この本を通して、組織としての危機対応はどうあるべきか?、情報共有の方法、事前訓練の重要性など、「現場」というものに関わる人々が一読に値する教訓が多数あり。
一例として、とても興味深かったモノがイソコンの取り扱いについて。
福島第一原発には、電源停止時にも自動で稼働する冷却装置(イソコン)が設置されていた。
大震災による津波被害で全電源が停止した時、吉田所長はイソコンの稼働状態について、当初の想定通り稼働していると思い込んで確認をしなかった。
中央制御室での人員もイソコンの稼働状態は、事故への対応のため頭から抜けていた。
吉田所長は免振棟の人員に、豚鼻(外壁にでているイソコンの蒸気吹きだし口)の状況確認を指示するも、確認した人員も実際にイソコンが稼働した状態を見たことがなく、イソコン稼働していると思い込んでしまった。
結果、第一原発の冷却機能が稼働していないことに気づかないまま時間が経過し、メルトダウンへ至ってしまった。
イソコンは、第一原発の稼働当初は実際に試運転し稼働試験をさせていたものが、どこかの段階で稼働試験を止めてしまっていた。
そのため、現場の人員がイソコンの機能と実際の稼働状態を理解しておらず、判断ができなかった。
ほか、海水注入を吉田所長の独断で実行に移したが、実際は海水は全く原子炉に届いておらず、何の効果も発揮していなかったこと、どの組織でも課題となる「情報の共有」・・形だけを整えた報告システムなのか、活きた報告システムがあるのか?、など考える点がいろいろ思い浮かぶ
『ヤバい社会学』
シカゴのロバート・テイラー・ホームズというギャングが管理するスラムで、新米の社会学者が一人のギャングリーダーと親密になることで、ギャング・ヤク売人・売春婦・自治会長など、地域コミュニティでのそれぞれの力関係やおカネの動きを調査したノンフィクション。ギャングというと映画の影響か、抗争ばかりしている印象あるが、実際は抗争がおこると客がスラムに寄り付かなくなり、ヤクの売上が落ちるため抗争を嫌い、それぞれのコミュニティの有力者とカネや話し合いで調整役をしていること。
暴力沙汰などのトラブルがあれば、警察へ対応を依頼するという一つの「常識」がスラムでは通じない・・警察もスラムのトラブルに関わりたくないので、通報があっても対応しない。
そのため、ギャングや自治会が独特の権力構造の中で問題を自己解決している様子が、臨場感ある姿で描かれている。
著者は、とある経緯でギャングの「帳簿」を手に入れ、ギャング内の経済状況を把握することができたが、ギャング内でのカネの動きについての記載もオモシロい。
そこそこ厚みのある本だが、ルポとしての臨場感、アメリカンスラムの生活を覗き見る面白さから、一気に読めた。
『ヒルビリー・エレジー』
トランプ大統領を誕生させた支持者エリアといわれる「ラストベルト」と、労働者階級の白人の実態とは?、を著者の半生をたどりながら理解していくことのできる好著。「ヒルビリー」(田舎者)、「ホワイトトラッシュ」(白いゴミ)と呼ばれる白人労働者たち、曰く忘れ去られた人々が、どんな世界観の中で生活しているか。
著者の目を通して見えてくる白人労働者たちには、ある種の「絶望」が横たわっていることが分かる。
仕事があれば!と言いながら、仕事をすぐに辞める労働者、そもそも人生の選択肢として大学への進学という視点がでてこない生活環境と文化・・背景にあるのは、「自分」で自分の人生を変えることができるという「希望」が欠落していること。
貧困家庭で起こっていることは、生活環境の厳しさもあるが、希望の欠落が自助努力を放棄させていくシステムが再生産されていくこと、自尊心の欠落が人生の可能性そのものを狭めていくこと。
自助努力をしない人々を一律に自己責任の一言で扱ってよいのだろうか?、と考える。
努力することで何かが好転した経験のない人間に、努力の必要性を説いたところで、何が伝わるのだろう?
人の精神の文化度をどう好転していくことができるか?、を考えるキッカケにもなると思う。
『殺人犯はそこにいる』
北関東で5人の少女が行方不明となる事件があり、同一犯の犯行と疑われる。その中の一つが、冤罪と証明された「足利事件」。著者は「足利事件」の菅家さんとも面識があり、真犯人を見つけ出すため、容疑者となっていた菅家さんを候補から「排除」することを目的に冤罪の証明に努力する。
証拠とされたDNA検査のずさんさや、警察の組織として誤りを認めようとせず、いったん軌道にのった路線から降りるくらいなら冤罪も本当の犯罪として固めてしまおうとする悪質さ。
『それでもボクはやってない』という痴漢冤罪も身近になるこの頃、冤罪の問題や司法・警察の組織的な問題は、いつ自分が当事者になるかもしれないという臨場感がある。
自分も含めて「科学的」という言葉で表現される結果を、安易に信用する傾向がある中で、「科学的」な内容がどんなモノか吟味しない危険性、ネットやメディアを含めた情報とどう向き合うか?、といったことも考えさせられた。
DNA検査の問題点など、細かな問題追跡などややこしく感じる点もあるが、語り口は一人称で分かりやすく、ノンフィクションとして秀逸
本の一覧
<12月>
これでいいのか富山県
知的人生のための考え方
人生100年時代のライフデザイン
日本人の9割が知らない遺伝の真実
失敗の本質 福島第一原発 1号機冷却
<11月>
「お金」で読み解く世界史
階級断絶社会アメリカ
リベラルという病
超ソロ社会
結婚しない男たち
ヤバい社会学
<10月>
情報は一冊のノートにまとめなさい
中国政治から見た日中関係
言ってはいけない残酷すぎる真実
二つの政権交代
<9月>
ヒルビリー・エレジー
最後の資本主義
殺人犯はそこにいる
リベラルアーツの学び方
ローカル仕事図鑑
ベトナムの少女-世界で最も有名な戦争写真が導いた運命
<7月>
ローマ帝国の崩壊、文明が終わるということ
日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか
旅ボン、大阪編
クールジャパン
オーガニックラベルの裏側-21世紀食品産業の真実-
新・所得倍増論
<6月>
中国の論理
この世界はあなたが思うよりはるかに広い
世界の多様性 家族構造と近代性・・途中で断念
<5月>
アメリカ帝国の終焉 勃興するアジアと多極化世界
寿命図鑑
移民の経済学
トランプ大統領とアメリカの真実
失敗の本質
<4月>
ダークマネー・・途中で断念
江戸を造った男
東京最後の異界、鶯谷
池上彰、佐藤優 僕らが毎日やっている最強の読み方
グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命
<3月>
昭和30・40年代の墨田区
墨田区の歴史
エミールガレ1
現代陶芸 花器・壺
辞めて生きる技術
上野アンダーグラウンド
ザ・ワーク・オブ・ネーションズ
<2月>
富山県の歴史
バーニーサンダース自伝
現代アメリカ経済 アメリカングローバリゼーションの構造
<1月>
プーチンの世界
関東の風土と歴史