リヒテンシュタイン展@国立新美術館 レビュー

リヒテンシュタイン展@国立新美術館へ行った記録です。
混み具合   辛 い/1・2・③・4・5/快適
作品の数   少ない/1・2・3・4・⑤/多い
面 白 さ つまらない/1・2・3・4・⑤/面白い

リヒテンシュタインという貴族が今も現役で、ウィーンに侯国として今も現存していることを恥ずかしながら知りませんでした。
展覧会にはリヒテンシュタイン家の簡単な歴史が説明されてましたが、神聖ローマ帝国時代から続いていて、美術品をコレクションすることで侯国の存在を認められるまでになったというのが、すごく不思議な縁をもった一族なんだなと思います。
個人的には美術の蒐集なんて、道楽や趣味みたいなものという印象があるんですが、リヒテンシュタイン家は違います・・・侯国の主は代々美術の蒐集と保護に努め、目利きであるべし!
家業に精を出し、勤勉に努めよ!と同じ意味合いで、美術コレクターに努めよ!って言っているので、スゲー家訓ですよ(笑
でも、美術コレクションに努めることで、ハプスブルク家の重臣として出世し、神聖ローマ皇帝から「あなたのコレクションを見せて欲しい」なんて手紙をもらうまでになるんだから、どこから道が開けるか分かりませんね!

とりあえず、今回、印象に残った絵画等を見てみたいと思います。
ヨーリス・ファン・ソン
「倒れた水差しのある静物」

今回の展示でまず、面白かったのは「バロック・サロン」という一室が作られていて、リヒテンシュタイン家の美術品が展示されているウィーンの「夏の離宮」を模した部屋です。
「夏の離宮」では、美術品が建物の装飾や調度品と調和するように配置され、空間全体で美術品の存在を表現する形をとっているそうです。
単に絵画を並べるだけではなく、天井画もあるということで、その天井も再現されていました。
ここは、部屋に入った瞬間に、おぉ!とこれまでと明らかに違う空間のオーラに一瞬、圧倒されました。
美術品の発する空気の濃密さを、肌で感じることが出来ます。
この部屋の美術品には、キャプションがついておらず題名なども表示されていません。
そのため、入口で入手する「バロック・サロン」専用の解説を片手に、美術品と資料を見比べながら鑑賞することになります。
絵画以外にも素晴らしい調度品も展示されており、まさしく”サロン”と呼ぶに相応しい空間です。
ウィーンの「夏の離宮」は、1807年から一般公開されていたようですが、第2次世界大戦時に戦火から美術品を保護するため、美術品を侯国へ移送し保管していたとのことです。
それから、66年後の2004年にやっと、再び「夏の離宮」での美術品の一般公開が再開されたということで、これまた歴史の流れを感じ、展示品を見る目が変わります。
で、この「倒れた水差しのある静物」は、「バロック・サロン」の入口近くに展示されていて、今回の展覧会でまず最初に魅力を感じた絵画です。
画像だといまいちなんですが、実物は水差しや果物の質感が素晴らしく、水差しの金属を表現する技術の高さに目を奪われます。
また、果物の瑞々しさも艶やかで、イチジクの粒粒が本当に1つ1つの粒に存在感があり、完成度の高さにしばらく動けなくなるほどです。
クリストファーノ・アッローリ
「ホロフェルネスの首をもつユディト」
ルーベンス
「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」


「ホロフェルネスの首をもつユディト」は、一瞬、サロメ?と思ったんですが、題名が全く関係ないので・・・ホロフェルネスって誰?というところから、始まりました。
後でホロフェルネスを検索したところ、旧約聖書の話の一説のようですね。
鑑賞時は内容が分からないままだったんですが、まず首をもつユディトの目と表情に集中しました。
何かこうあっさりした感じがあるんですが、恍惚とした(自分には荘見えるのです)目に惹きつけられてしまうのです。
ルーベンスの「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」も、活き活きとした表情が素晴らしいです。
このクララは、この肖像が描かれてから、12歳頃に亡くなってしまったようですが、この絵画からはクララへのルーベンスの愛情を感じずにはいられません。
絵画が描かれていた頃は、幸福に満ちていたのかなと想像します。
ピーテル・ブリューゲル2世
「ベツレヘムの人口調査」
この絵が描いているのは、1607年ごろのベツレヘムの様子だそうですが、左下に集まっている人たちや湖を歩く人たちの姿に、当時の風俗がよく描かれていて見ていて飽きません。
氷の上をソリみたいなもので滑っている人もいれば、喧嘩している人もいるし、火に集まって暖をとっている姿や鳥をさばくところなど、中世の生活感があふれてて、人々の生命力を感じます。
レンブラント
「キューピッドとしゃぼん玉」

レンブラントの「キューピッドとしゃぼん玉」・・・これも面白い絵画で、最初は可愛いキューピッドがしゃぼん玉をもってて、愛らしい絵だなと思いきや。
キューピッドは愛を表し、しゃぼん玉ははじけて消える儚さを。これを二つ合わせると、愛の儚さを表すなり。
絵の印象を裏切る題名に、こころ揺さぶられます。
マヂッスか?ってのが、まず思い浮かんだ感想です。(笑
フランチェスコ・アイエツ
「復讐の誓い」
フリードリヒ・フォン・アメリング
「夢に浸って」


女性を描いた絵を並べてみましたが、それぞれ特徴的な描かれ方で、こうして比べてみると目力の違いに驚きます。
左の「復讐の誓い」は、左の女性の目に題名そのままの憎しみを感じざるを得ません。
なかなかこういった負の感情をストレートに表現した絵を見たことが少ないので、印象深いです。
決意溢れる心が、あますところなく目に表現されてますね!
表情以外にも黒いレースの表現が巧みで、背景を透過しつつレースの存在をシッカリと描き出す技術に脱帽です。
それに対して、「夢に浸って」の目の表情・・・これもまた、目の前のものを映しておらず、想い描く心の世界に飛んでいる表情が、よく出ています。
ただ、こちらも空想とかそういう夢より、想い描く夢を実現していこうという静かな意思の力を秘めた表情のように見えますが、人によっては違った見え方がするかもしれません。
フリードリヒ・フォン・アメリング
「マリー・ルランツィスカ・リヒテンシュタイン
侯女2歳の肖像」
「豪華なジョッキ」

「マリー・ルランツィスカ・リヒテンシュタイン侯女2歳の肖像」は、展示も終わりの頃に鑑賞したものですが・・・この愛らしい表情にノックアウトです。
ホホと目の満ち足りた表情!・・・これが全てです。
他に言うべきことは、何もありません(笑
絵画以外にも多様な調度品が展示されてましたが、世界一高価な象牙の美術品の一つということで、「豪華なジョッキ」が異様な存在感を発してました。
象牙から彫りだしたものなんでしょうが、豪華だけど一種の異様な姿に全く触りたいという気が起こりませんでした。
何でだろう・・・少し気持ち悪かったかな?
「貴石象嵌のチェスト」

「貴石象嵌のチェスト」、これは物としての使い方はしないんでしょうが、1620年頃のものだそうでチェストの周囲に描かれた風景や人々の姿から、当時はこういう風景や生活が広がっていたんだろうなと想像を膨らませてくれる刺激に満ちていました。
さすがに現代の加工技術と比べると、全体としてモッサリした雰囲気を感じてしまいますが、描かれている絵の素朴さと色使いに落ち着いたアンティークの品の良さを感じます。
鑑賞時間は2時間つかったのですが、本当にあっという間の2時間で、じっくり見ることが出来ました。
入口付近は混んでますが、奥へ行けばさほどの混雑もなくスムーズに鑑賞することが出来ます。
展示方法にも工夫が凝らされているし、満足度の高い展覧会だとお勧めします。