探検!東京国立博物館
藤森(建築家)と山口(画家)による東京国立博物館の建築と、展示物等についての紹介やエッセイです。
それぞれの専門家からみた東京国立博物館の独自性や歴史・注目ポイントなどが、読みやすい文体で書かれています。
展示品については、そこまでピンとくるところはないのですが、建築物としての紹介は面白いです。
敷地内に時代や意匠のまったく違う建物が混在していて、建築を見て回るだけでも一日がかりになりそうです。
本館は和洋折衷の瓦葺き屋根が乗っており、表敬館はライオンが鎮座しドームのあるバロック様式。
法隆寺宝物館は、池の中をエントランスへ続く通路が独自の景色を生みますし、リニューアルの終わった東洋館も外だしの柱がモダンです。
普段、入れない茶室についての紹介もあり、東京国立博物館の全体感をつかむのにちょうど良い本です。
図解でわかるランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて
投資の世界がランダムウォークすることを前提としたなかで、一時期、注目された行動ファイナンス理論を紹介する本です。
ランダムウォークの世界では、ファンダメンタル分析・チャート分析は無意味。
アクティブ運用は博打で取引コストの分、マイナスの成績となりやすい
ランダムウォークは、ブラウン運動(正規分布)に近づく、先進国市場は正規分布にかなりあてはまる
しかし、完全には効率化されず下記の非効率性が存在する。
マーケットの非効率性
①情報が瞬時にあまねく伝わらない
②コストが高い
③人が合理的に行動しない
マーケットの”わずかな”ランダムでない部分を取らない限り、リターンは高まらない
ランダムでない部分をとるための考え方として、行動ファイナンス理論が紹介されます。
内容的には、投資家がリスクを過小評価しやすいものであったり、利益よりも損失を回避する行動をとりやすいなど、投資について触れたことのある人なら耳にしたことのある内容がほとんどです。
正直、行動ファイナンス理論といっても具体的な手法や統一された分析方法などがあるわけではなく、人間の行動の特性を理解して、市場の動きを読むような話なのかなと思います。
人間の特性と市場の動きを把握して利益を上げるというのでは、アクティブ運用と何が違うのか?
結局、市場を理解できないという意味では変わらないように感じました。
市場を理解できないなら、インデックス投資やドルコスト投資で市場の動きを振り回されない方法で投資していくしかないのではないでしょうか。
国マニア 世界の珍国・奇妙な地域へ
普段、ニュースに取り上げられることもなく、自分から調べないと接点をもちようのない国、52カ国を紹介するものです。
プレミアム切手を財源とする小国家やイスラエル以外にもあるユダヤ自治州など、表の歴史にでてこない本当に小さな国や地域の歴史や人々について、雑学的な雰囲気で読みやすく書かれています。
地理や歴史というと暗記物というイメージがありますが、小さくてもいろいろな経緯や歴史があって今の形になっていることが分かれば、世界に対してもっと多様なイメージを持つことができたと思います。
ニュースだけをみていると、世界は経済と民族・軍事で動いているように感じてしまい、そういった固いものから離れた人々の生活や人生が動いていることが分からなくなってしまいます。
もっと柔軟に世界をみられる素材として、とても楽しめる本でした。
現代中国経済
中国経済の発展や現状について、GDPや工業生産などの数値をもとに分析した教科書的な本です。
計画経済による重工業偏重な時代から、改革開放が進み市場経済化していく中で中国経済の産業や労働がどのように変化していったか、今度の課題などを概観していくことができます。
中国経済というとGDP等の統計が信用できないという話もあり、粗探しをするようなニュースもあります。
しかし、ある程度の誤差を認めつつも数値データを見ていくことで、産業構造の変化等を見ていくことは無駄ではないと思います。
中国経済の規模やいずれ米国にならぶと思いますし、一人当たりGDPもまだ成長するはず。
日本への影響も軽視できるものではないですし、過大評価も過小評価もするべきではないでしょう。
とかく人の見方には個人的な願望を反映したバイアスがかかりやすく、中国についてはマスコミの取り上げ方も偏りがあるように感じています。
そのような中で、内容的には教科書的で面白みはないですが、冷静な分析に触れられる本書のような内容を基礎にしつつ隣国をみていく視点は重要だと思います。
壁と卵の現代中国論
現代中国のさまざまな事象を経済理論や文化的な背景、日本の中国のとらえ方の癖などのエッセイ?
個人的に興味をひかれたのは、以下のポイント。
・日本の統治の特徴は民への距離が近く、支配者は庶民の生活へ介入する傾向が強い。
江戸時代や明治以降の庶民のお上への陳情や、日常生活にまで触れをだしてコントロールしようとする権力がある。
対する中国の統治の特徴は民への距離が遠く、刑罰、徴税以外に庶民に介入しない
庶民の運営は、任意団体による自治によって治められていた
→ 人間は自分と同じ社会システムの延長で他国をとらえがち。そもそもの国の形が違い生き方が違う。
ニュース等をみていても日本人的な世界観から中国を取り込もうとするが、一面を切り取っているだけだったり意図的に歪められている部分も多いと思う。
何事も文脈としての歴史や流れのつながりの中で、現状のポイントを理解しないといけない。
現状のネット社会でのニュース等は、つまみ食いばかりで流れとしてつかむ視点が欠けていると思います。
・国の民主化と経済成長の間に、直接の相関はない
→ 政治が安定していれば、政治の形に不備があっても市場は順調に成長する可能性がある。
中国はどこかで民主化が進まないと、経済成長が進まないという解説が多くあるが、必ずしもそうとは言えないのではないかと思います。
中国の現状は、統治の市場への干渉が強すぎるというのは、株式市場への強権的な介入の仕方を見ても実感するところありますが、ネットサービスの発展や開発などをみていると日本より先進的な実験をいろいろやれているような気がします。
教養としての認知科学
人間の現実の把握の仕方にはいろいろな癖があり、その都度の文脈によってゆらぎがあるということを認知科学での見方を紹介するものです。
興味をひかれたのは、以下のポイント。
・『は』という文字は、文化的な規約で『は』という視覚パターンと『ハ』という音が結びつけられている
・人の視覚表象はとても限定的で人の視点の動きを見ると、人は特定の部分を集中的に見ていて、それ以外の部分には全く注意を向けていない。
・繰り返しの暗示とイメージを作り出すことで、虚偽の記憶が無意識的に作り出されることもある
記憶は書き換えられたり、消去されたり、他の記憶と混じったりして全く安定していない。
人は外界のすべてを把握しているわけではなく、ほんのわずかな点の情報しか取得していない
その情報も、後からの情報によって簡単に消されてしまう。
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