ラファエロで有名な絵画といえば、こちら。
ヴァチカン宮殿の「アテネの学堂」ですね。
「アテネの学堂」は、1509年-1510年に描かれたもので、27歳頃の作品です。
ローマに移住して2年で教皇から、教皇の公邸での仕事を任されるようになるんですから、いや~、名前も売れてたんでしょうねぇ。
ラファエロ以外にも当時、有名だった画家たちにも仕事を依頼し、その中からラファエロが選ばれたということで、よほどラファエロのプレゼンが教皇の心をゲッチューしたのだと思われます。
アテネの学堂 |
ルネサンスは、古典古代のギリシャ・ローマの復興運動ということですが、この「アテネの学堂」には、古代ギリシャの学問所に、「ソクラテス」「プラトン」「アリストテレス」等の当時の文人が集っている様子が描かれています。
とりあえず、画中に誰が描かれているかを番号付けしてみました。
①プラトン:モデルは、ダ・ヴィンチ
②アリストテレス
③ソクラテス
④ピタゴラス
⑤ヘラクレイトス:モデルは、ミケランジェロ
(前540~470頃の「泣く哲学者」とかで、陰気な人だったらしい。画中でもそんな感じですね)
⑥ディオゲネス
(前4世頃の哲学者で、モノを持つことを嫌って、樽の中に住んだとか・・・なので、裸なんですかね)
⑦ユークリッド:モデルは、ブラマンテ
⑧イル・ソドマ:同時代の画家
(ラファエロがこの部屋の装飾を手掛ける前に、この部屋の装飾の一部を手掛けていた画家ということで、画中に描いたもの)
⑨ラファエロ(さりげなく、自身も画中に登場させてギリシャ文化の継承者ということを表現したらしいですね・・・画中のモデルに同時代の著名な画家達も採用されていて、ギリシャ時代の人物と画家達とともに自分もそういった人物達と並ぶ存在ということをアピールしたんでしょうか。シレッとした自己主張、小坊主は好きですよ~)
画家達と画中の人物との一致具合はよく分かりませんが、画中の人物が誰なのか?は、相応の教養のある人間であれば分かるようになっているというところが、ラファエロの教養の深さを表わすものと言われています。
プラトンとアリストテレスも画中で本を持っていますが、その本はそれぞれの著書である「ティマイオス」と「倫理学」となっています。
また、プラトンは手を天に向け、アリストテレスは手を水平に突き出しています。
これも、プラトンの理想主義とアリストテレスの実践哲学を表現しているとか・・・いや~、アンチョコをパクらずにそんなこと分かるか!と、小坊主の浅学っぷりが晒されてしまうわけですが、当時の教養ある方々には「ニヤリ」としながら、画中の人物達について会話する良いネタになったのかもしれません。
聖体の論議 |
描かれた順番としては、こちらが一番最初に描かれました。
画面は雲によって上下に分かれていて、上部が「勝利の教会」(教会の勝利)と下部が聖体について論議する?「戦う教会」とされています。
中央では、神(父)・キリスト(子)・ハト(聖霊)・聖体という縦のラインが結ばれており、三位一体が表現されています。
天使が持っているのは、四福音書です。
下部に描かれている人物達には諸説あるようですが、フラ・アンジェリコ・ブラマンテ・聖アウグスティヌス・ダンテ等々の歴史上の人物を描いているとされています。
キリスト教の神学を象徴的に表現し、キリスト教にかかわる歴史上の人物達を動きを持たせながら描いていくことで、「教会の勝利」というテーマにまとめ上げていった大作です。
教皇の公邸に描くに相応しい題材で、また、キリスト教の神学と西洋哲学とを一つに融合させたラファエロの力量に感嘆します。
パルナッソス |
「パルナッソス」というのは、ギリシャ神話でいうところの「パルナッソス山」にあたります。
パルナッソス山にアポロンを中心に、9人のムーサ(女神)たちと18人の詩人が集っている状態です。
カリオペ・エラトもムーサの1人ですが、ムーサは詩・歌・芸術にかんする女神達で、アポロンに付き従うものとなっています。
ムーサ達は本来は霊感を与える泉を支配するニンフだったようで、その泉の一つがパルナッソス山にあるカスタリアの泉で、そこがムーサ達の住処なのです。
ムーサ達には9人それぞれに、次の名前と役割が与えられています。
・クレイオ ・・・歴史。
・エウテルペ ・・・音楽と抒情詩。
・タレイア ・・・喜劇、田園詩。
・メルポメネ ・・・悲劇。
・テルプシコレ・・・踊りと歌。
・エラト ・・・抒情詩と恋愛詩。
・ウラニア ・・・天文学。
・カリオペ ・・・叙事詩。
・ポリュムニア ・・・英雄賛歌。
アポロンはオリュンポス12神の1人で、人間性の理性的で文明化された面を表わすものとされています。
音楽家としての面も持ち合わせており、このアポロンとムーサ達が一緒に描かれる題材は、昔から詩と音楽の寓意を表わすものとして描かれてきたものです。
ホメロスは、「イリアス」と「オデュッセイア」を書いたギリシャの盲目の詩人です。
イリアスは、ギリシャ神話を題材とした最古のギリシャ叙事詩。
オデュセイアは、ギリシャの英雄オデュッセウスの冒険を記した物語。
ここでは、アポロンとムーサ達と一緒に描かれることで、やはり詩と音楽の寓意を表わす形になっています。
ルネサンスの文学・芸術賛歌といえるもので、ルネサンスの古典古代の理想を表現しようという精神が表わされたものと言えます。
「アテネの学堂」や「聖体の論議」と比べると、ちょっと手を抜いた?な感じで、他の作品と比べると完成度が少し微妙かもしれませんが、傑作だと思います。
エゼキエルの幻視 |
エゼキエルは四大予言者(他の3人は、イザヤ・エレミヤ・ダニエル)で、前579年にバビロンに移住したユダヤ人です。
エゼキエルは、川のほとりで幻視を体験し預言者としての召命を受けたとされ、その川のほとりで体験した幻視を表現したものが、この「エゼキエルの幻視」という作品です。
エゼキエルは、ある日、激しい風と光り輝く雲の中から、4枚の翼をもった人間・ライオン・牡牛・鷲の顔をした生物と神が表れるという幻をみたとされています。4体の生物は「黙示の獣」として、「ヨハネ黙示録」にも登場しています。
中世では、四福音書記者の象徴とされていたようです。
幻視をえたエゼキエルは左下に小さく描かれていますが、メインは画中に大きく堂々と表現された幻視のイメージです。
幻視の内容がストレートに表現されていて、神の存在感が圧倒的です。
絵の大きさは、40cm×20cmと小さな作品ですが、その美しさは飛び抜けていると思います。
キリストの変容 |
この絵も上下に分かれていて、上段はモーセ(石版)・エリヤ(預言書?)とともにキリストが描かれ、その下に驚いて地に倒れている使徒たちがいます。
これは聖書で山の上で預言者とともに語り合い、光り輝く姿を弟子達に見せたという場面があり、その姿を描いたものです。
下段は、悪魔に憑かれた少年を治癒する場面を描いたものですが、上段のキリストと弟子達の場面とは、直接の繋がりがあるものではないようです。
絵的には下段の赤い服の男性が上段のキリストを指さすことで、下段から上段への繋がりが見られます。
絵的には大胆な動きのある絵で、キリスト等が空中に浮かぶ姿には上昇するダイナミックさが感じられます。
悪魔に憑かれた少年の表情も、虚ろな感じがよく表現されていて、その他の人物達もずいぶん大きく動いているのに、安定感の崩れない素晴らしい絵です。
この安定感はキリストを頂点とした、八の字の構図から生まれるものでしょうが、それぞれの登場人物が互いに殺しあわず一体となっているところに、素直に感心します。
とりあえず、ラファエロ展の鑑賞までにラファエロについて、予習するぞ!と勢いつけてやってきたのですが・・・天才の作品を見ていくのも大変で、小坊主のエネルギーが尽きてしまいました(笑
正直、ラファエロ展に来ている絵をもっと見る必要があったんですが、それ以外の有名な絵の方を知らなかったこともあって、そちらを優先してしまいました。
こうやって見ていくと、ダ・ヴィンチやミケランジェロの影響を受けながら、どんどん絵の完成度と個性が創られていく様子が分かって、面白かったです。
本当に37歳という若さで亡くなってしまったのが残念ですが、それ以降の絵画でずっと絵画の規範として扱われたラファエロの影響力を垣間見ることが出来ました。
いや~、たまには苦行も我慢してやってみるものです。
正直、まだまだ分かってないことや知らないことも多いですが、好きなことなので地味に続けていきたいなと思っています。
次はラファエロ展の感想か、7月に鑑賞予定のレオナルド展@東京都美術館の予習でもしようかな。